背筋をのばせ!

猫背な私の行動記録

無意識に価値観を押しつけていたのは、自分自身だった。

自分が大学時代で頑張ったことの一つにキャンプリーダーのボランティアがある。
 
施設やテントに泊まるのは長期休みのキャンプだけだが、普段は小学生を日帰りでアウトドアに連れて行く引率リーダーとして携わった。
 
1年半も続けられたのは、ボランティアといえど自分たちが主体となって活動を行えるということ、
そして自分がとったアクションが子どもたちの成長に結びつくことを肌で感じられる点にあった。
 
その組織のことは、好きだった。
不満がないわけではないが、大学時代に頑張れることが欲しいと思っていた自分にとって最高のフィールドだった。
 
もともと子どもが好きなわけではなかったが、活動を通じて憎からぬ存在だと思うようになり、ときにかわいいと思うようにもなった。
 
そんな場所で働くスタッフのことも、尊敬していた。どんな想いを持ってこの活動をしているのか、言葉にして伝えてくれた。
組織の理念である、「楽しさだけでなく、生きる上で大切なことを活動を通して知ってほしい」に秘められた気持ちに私も共感し、なんだか熱を帯びてきて、その想いを1日の活動の中で形にしたいと思うようにもなった。
 
だから、がむしゃらにやってきた。
 
 
 
でも、決定的に距離をとりたくなったのが、あの日の活動だった。
 
 
 
〜〜〜
 
 
 
その日は京都にヘルプで出動。京都のスタッフである社長の弟は癖のある人で、苦手な人が多い。
私もあまり好きな人ではなかったが、その志はどちらかというと好きだった。
 
アウトドアクラブの活動が終わった。
 
活動終わりの夜は、組織のオフィスで晩ご飯を食べるのが通例。この日もそうだった。
 
晩ご飯が始まってしばらくすると、社長の弟が人生論を展開しはじめた。
「アニメとか、アイドルとかを追いかけるのは辞めたほうがいい。モテないぞ!」
みたいな話。
 
彼の価値観に疑問はない。私のそれとは違うけれど、価値観は人それぞれでいいし、多様性があっていいと思っている。
「それは違うと思いますよ!」
なんて異論を唱えることは無意味なので、へ〜そうなんですね!、などの相槌に終始していた。
 
ところがその話をひと通りしたところで、彼は私に言った。
 
「そういえばsbys君、この本は君のでしょ?こういうの、よくないと思うで〜〜笑笑」
 
その本は『俺ガイル』と呼ばれている、ライトノベルだった。
やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。 (8) (ガガガ文庫)

やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。 (8) (ガガガ文庫)

 

 

 
当時GYAOで無料放映されていて、これいいやん!と思い衝動買いした人生初ラノベ、それが『俺ガイル』
知らない人に説明すると、「なんかむちゃくちゃ理屈っぽい男子高校生が主人公の、癖のあるラブコメ」とでも言おうか。
 
アニメ・アイドル系統を忌避する人が一定数いることはよく知っている。高校時代にそういう人と接したことがあるから。
このスタッフがそういうタイプだというのはなんとなく察していたので、そういう類の匂いは出さないようにしていたが、
どうやら机に無造作に置いていたのを、ブックカバーを外して中を見たらしい。
 
迂闊だった。
まさかブックカバー外すとは思わんやん…
 
盛大に晒し者にされ、他のリーダーは爆笑していた。私の隣の女リーダーは軽くひいてた。
 
当時肥大していた自分の尊厳のような何かを他人の前で破壊され、同時に自分が好きなもの、好きだったジャンルを完全否定されたことが腹立たしかった。
 
彼は私をひと通り弄った後は、他のリーダーにも目を向けた。
嵐が好きな女リーダー、
TWICEが好きな男リーダー、
次々に切り捨てて、そして彼の持論を展開した。
さっき私を引き気味にみた女性リーダーは、彼の意見に賛同した。
この瞬間、京都のオフィスは彼の意見が正論になった。
 
 
 
後にわかるのだが、組織の中心にいる彼の価値観は多くのリーダー・スタッフに伝染しており、その多くが彼の価値観を染まっていない他のリーダーや子どもたちに押し付けるようになっていた(ように感じた)。
 
この価値観は、この組織そのものだ。この組織に染まったリーダーやスタッフが、子どもたちの見本になっていいのだろうか。
たかだか20代の若者が、その組織以外の世界を見ていない人々が、
純朴な子どもたちに何を伝えられるのか。
自分の行動が子どもたちにとって、そして自分にとってよいことなのか、わからなくなってしまった。
 
何より、組織によってリーダーが操作され、そのリーダーも無意識に子どもたちを操作しているような、そんな組織の構造が見えてしまった気がした。
そしてその価値観の押しつけに、無意識に私も関わっていると思うと、なんだか自分が自分じゃないようで、恐ろしく感じられた。
 
 
彼とはたぶん、相容れない。
この組織ともたぶん、相容れない。
 
 
この組織で、あいつの隣で、あいつの思想を持って動かされたくないと、強く思うようになった。
 
 
 
組織に対する疑問は、やがて確信へと変わっていった。